作品情報
1ページ
コマ1
【画面】
病室のベッドに老博士が横たわり、その傍らでメイドが涙を流している。博士は画面左、メイドは画面右。背後の窓辺にはチューリップの花瓶と、二人で写った写真立てが置かれている。
【メイド】
「博士ーー!!」
【博士】
「どうやらワシは ここまでのようじゃ」
【補足】
メイドは頭身を低くしたギャグ寄りの表現。大粒の涙と大きく開いた口で、感情が直接的に描かれている。博士は汗を浮かべているが、表情は穏やか。
コマ2
【画面】
メイドの顔のアップ。目を強く閉じ、左右の頬を涙が伝っている。口は四角く開き、博士の方を向いている。
【メイド】
「はかせ〜」
【補足】
大きなコマの悲壮感から、デフォルメされた泣き顔へ切り替わる。深刻さと幼いような反応が同居している。
コマ3
【台詞】
なし
【画面】
博士の目元だけを切り取ったアップ。まぶたは重く、視線はメイドへ向いている。眉と目の周囲の皺が、身体の衰弱を伝える。
【補足】
博士がまだメイドを認識し、見つめていることを示す静かなコマ。
コマ4
【画面】
博士が弱々しく左手を差し出す。手のひらは上を向き、指は短く、ふっくらしている。手の輪郭には小さな震えが描かれている。
【博士】
「手を」
「握ってくれないか……?」
2ページ
コマ1
【台詞】
なし
【画面】
画面左下から博士の手が差し出され、右側からメイドの両手が近づく。まだ指先は触れていない。手と手の間にわずかな空白がある。
【補足】
接触の直前を独立したコマにし、メイドが自分の意思で手を伸ばす時間を描いている。
コマ2
【台詞】
なし
【画面】
メイドの両手が博士の左手を上下から包み込む。メイドの手は細く、博士の手は厚く柔らかく描かれている。
コマ3
【画面】
メイドが博士の手を胸元で握りしめている。目は閉じたままで、涙が頬を流れ続けている。博士の腕が画面手前から伸びている。
【メイド】
「はかせ〜……」
【効果音】
「ぎゅ〜〜……」
【補足】
握る動作は強いが、博士の手を壊さないよう丁寧に包んでいる。
コマ4
【台詞】
なし
【画面】
博士の顔の上半分のアップ。薄く開いた目に小さな光が入り、メイドを見ている。
コマ5
【台詞】
なし
【画面】
同じ角度の博士の顔。まぶたが閉じ、目の光が消える。
【補足】
直前のコマとの最小限の差によって、博士の死が静かに示される。
コマ6
【画面】
画面全体が白く、下端だけに博士とメイドの黒いシルエットがある。メイドはベッド脇で博士の手を握っている。
【博士】
「ありがとう」
「本当に いい人生じゃった……」
【補足】
博士の最後の言葉。人物の細部を消したシルエットと大きな余白によって、声が遠ざかる感覚を作っている。
3ページ
コマ1
【台詞】
なし
【画面】
窓辺のサイドテーブル。チューリップの花瓶と、博士とメイドが一緒に写った写真立てが並んでいる。カーテンの向こうから白い光が差す。
コマ2
【画面】
メイドの横顔の大きなアップ。顔は左を向き、目を固く閉じ、大粒の涙を流している。背景は白く、声だけが強調される。
【メイド】
「博士ーーーー!!!」
【補足】
長く引き伸ばされた呼び声。返事のない博士へ向けた、最後の呼びかけになっている。
4ページ
コマ1〜6
【台詞】
なし
【画面】
3列×4段の小さなコマ割り。最初の6コマには、涙を流すメイドの同じ横顔がほぼ変化なく反復される。
【補足】
同じ表情が続くことで、時間が経過しているようにも、一つの感情から動けずにいるようにも見える。
コマ7
【台詞】
なし
【画面】
泣いているメイドの横顔。直前までと同じ構図が続く。
コマ8
【台詞】
なし
【画面】
メイドの顔の代わりに、一輪のチューリップが大きく映る。花弁と雄しべまで細かく描かれ、その花から一枚の花びらが離れ、落ちる瞬間が捉えられている。
コマ9〜12
【台詞】
なし
【画面】
再び、涙を流すメイドの同じ横顔が4コマ続く。花の挿入後も表情は変化しない。
【補足】
花が挿入されても、泣く動作は変わらず反復される。
5ページ
コマ1
【画面】
ほぼ全面が白いページ。中央に、細い多角形の枠で囲まれた縦書きのシステム通知だけが浮かんでいる。人物も背景も描かれていない。
【システム】
「一定時間 登録話者の音声が検出されません」
【補足】
人物の姿はなく、一定時間声がなかったことを知らせる通知だけが置かれている。大きな余白が、返事のない時間と病室の沈黙を表す。
6ページ
【ページ全体】
通常のコマ割りではなく、白い余白の上に身体の断片とシステム通知が離れて配置されている。「基準姿勢」「関節トルク」「表情制御」「視線ベクトル」に関する処理が順番に実行される。
コマ1
【画面】
博士の手を包んでいたメイドの両手が上へ離れ、博士の手だけが下に残る。手の間に空白が生まれる。
【効果音】
「パッ」
【システム】
「基準姿勢に復帰します」
コマ2
【画面】
人物の描写はなく、白い余白に処理通知だけが置かれている。
【システム】
「関節トルクを調整中」
【効果音】
「キュイ キュ……」
【補足】
先ほどまで博士の手を握っていた身体に対し、関節単位の調整が行われる。
コマ3
【画面】
メイドの目元と耳のアップ。先ほどまで閉じていた目が開き、涙は見えない。顔は正面ではなく、横を向いたまま。
【システム】
「表情制御を初期化します」
「視線ベクトルを初期化」
コマ4
【画面】
白い余白の中に、処理完了を示す通知だけが置かれている。
【システム】
「基準姿勢への復帰を完了しました」
7ページ
コマ1
【画面】
病室全体を見下ろす一枚絵。博士はベッドに横たわったまま動かない。メイドは窓辺に立ち、両腕を左右へ水平に伸ばした基準姿勢を取っている。目は開いているが、泣いていた表情は消えている。
【背景】
窓から強い白い光が入り、サイドテーブルにはチューリップの花瓶と二人の写真立てが残っている。花瓶のそばには、落ちた花びらが二枚ある。
【文字】
「おわり」